2013年8月

1年でもっとも忙しい季節が今年もやってきた。夏の風物詩が好きで、若い頃5年ほど日本を離れていたときに懐かしく想うものがいつも「夏」や「和」を感じさせるものであったから毎年「今年夏はどんな風物に出会うのだろうか」というのが楽しみでもある。

夏の舞台のトップバッターは大阪芸大キャンパス見学会のなかで芸大芸術劇場で2日間行われる上演会で、自作の「グラズノフ・スウィート」を舞踊コース2年生16名が溌剌と踊ってくれた。文字どおりロシアの作曲家アレクサンドル・グラズノフが作曲した音楽を引用し、20分弱のシンフォニックバレエに振付たもの。グラズノフは巨匠マリウス・プティパと組んで名作ライモンダをつくったことで知られているが、私はダンサーたちによく「ニセプティパだ!」と笑わせながらゲキを飛ばしている。でも今回もしっかりと彼女たちは期待に応え、みんな笑顔満面に踊り抜いてくれてたくさんの拍手を受けた。むかしは明るい主題でも笑顔をつくることなく踊る子たちが多かったものだが、今の時代リハーサルでも笑顔を欠かさずに稽古に取り組むのが不可欠になり嬉しいことである。「舞台人とはなにか」ということが初期設定であることが今後も続くことを願う。それにしてもこの作品を踊ってくれた学生ダンサー16名はまるで石鹸の泡がはじけるような?豊かな表情と動きがとても愉快で新鮮で、3ヶ月間のレッスンと稽古の成果が表れてうれしかった。

ひとから「夏休みはいつからぁ?」とかよく顔を斜めにして聞かれる。おもに地元東京を中心とする面々からなのだが、悪いが私が務めている舞踊コースはほとんど”大学の授業”という印象とはほど遠く、われわれも舞踊コース生73名もバレエ公演を達成させるために全国から集まってきた集団のようなものなので、大学の正規授業があろうと終わろうとお構い無しと言った具合にリハーサルに取り組み、舞台を迎えて脚光を浴び踊る。バレエ団と全く変わらぬ姿がそこにはあり、それこそが芸術大学の本質であるのかもしれない。8月にあるさまざまな行事に向け稽古や準備に追われるなか、7月下旬は大阪城公園にあるシアターブラバ!という劇場で同じく大阪芸大の舞台芸術学科の学外ミュージカル公演が2日間にわたり上演された。演目は「真夏の夜の夢」でウィリアム・シェイクスピア原台本の作品のミュージカル化したものである。3年前に同名のバレエ全幕作品を大阪のY.S.バレエカンパニーで振付したこともあり、その作品に一部とはいえ、バレエシーンを手掛けさせていただきとてもわくわくしていた。振付した場面は2シーンでそれぞれ12、3分ではあったが、ストーリーを予期させる“プロローグ”と有名すぎるメンテルスゾーンの“結婚行進曲”であった。どちらもポアントワークの古典美学を全面に出した作品にし、今度は1学年上の3年生男性4名女性17名がところ狭しと舞台縦横に踊りを展開し、大きな喝采を受けた。振付も決してノーマルなものにとどまらず快活にし、それがかえってこの演劇作品にフィットしていたようにも思えた。
そこでひとつ。このコラムで「大きな拍手」とか「喝采を浴びた」とか表現することが多いのだが、断っておくがこれはどれも過大表現ではない。事実を伝えているだけである。それを疑うならどうぞこの大学舞踊コースの公演にお越し下さい。あっそうそう、忘れていたが夏の風物に早速出会うことができた。JR大阪城公園駅からシアターブラバ!までは公園の砂利道をザクザク音をたてながら7、8分ほど歩かなければならないのだか、今年も3日間毎朝ギラギラ暑い日差しのなか、林立する木に大量に止まるセミが大きな鳴き声を発していて、それをよけることもできずに聞きながら汗をかき劇場まで歩いた瞬間が、まさに「夏だな」と感じさせてくれた。・・・そんなものかと思われたらすまないすまない。

お問い合わせ
このページのTOPへ