2014年2月

今年の冬は寒く冷たかった。特に乾燥した空気が身にこたえる。ダンサーにとっても保湿は大切だが、ニューヨークにバレエ留学していた頃、今こそ温暖化であまり降らなくなったが、当時のニューヨークはもともと日本の緯度では青森あたりであることから冬になると雪がよく降り、バレエ学校の授業を終え外に出るとまだ汗で湿っている髪の毛が瞬く間に凍ってしまうほどだった。しかしアパートに戻るとスチームという暖房設備があり、これはニューヨークのどこのアパートもそうであったが管理人の判断で勝手に入れられるので部屋はポカポカ暖かく、時には外は雪なのに中はTシャツ1枚なんてことはしょっちゅうであった。蒸気がわき出てくるので、ダンサーにとってはありがたく、モスクワのホテルでも同じような体験をしたことがあり、欧米人の生活にカルチャーの違いを感じ、当時ダンサーの実力差もこんな生活環境からもあるのだと思ったものだった。今はエアコンで自分たちの意思で温度調整し、加湿器までそろえなくてはならず、必ずしも昔は不便なことばかりではなかった。

ローザンヌ国際バレエコンクールで今年も若き日本人がたくさん大活躍したことが大きく報道されていた。素晴らしいことで、むかし私も吉田都さんとダブル受賞し、今ほどではないがテレビや新聞に取り上げていただいた。しかし、あの頃を振り返るといい思い出ばかりではない。日本で受賞によって周囲にもてはやされ、意気揚々とニューヨークに留学したが、バレエ学校に入ると誰も自分がローザンヌ受賞者だとは知らず、それどころから全米やヨーロッパから学校オーディション(日本でいう入学試験)で選抜されて集まった優秀なダンサーばかりで、自分より2倍ぐらいの体格や美貌な者ばかりで圧倒されてしまった。ローザンヌで1番2番になっても学校ではその他大勢のなかに過ぎず、その年の最後の学校公演でも主役どころか、出演できるのが精一杯であった。ただこんなたいへんな想いにさせられたのは自分自身の甘えもあるが、日本の報道があまりにも掻き立てすぎたことも一因だったかもしれない。今、まさに今年の様子もそうで、テレビでも大げさに「世界一おめでとう!」とか言われていた。あくまでもローザンヌコンクールは本当に優秀なダンサーはすでに世界一流のバレエ学校に所属していて出場していない。コンクール受賞はダンサーにとってはスタートラインに立ったに過ぎず、バレエ団に入って主役を射止める保証はどこにもない。どうか周りはほどほどに祝福して今後の彼らを見守ってあげてほしいと願うのである。

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