2016年11月
私はちょうどその時新国立劇場中劇場の舞台袖で自分の出番を終え、荒い息をしたままステージの方に目を向けていた。そこには次の出番でニューヨーク在住の頃から大好きだったビリー・ジョエルの「ピアノマン」の調べに乗って黒のワンピースドレスでサスペンションライトの中で鮮やかに踊る名倉加代子先生の姿があった。その美しい光景を見ながら「終わってしまったな・・・」とゲネ・本番合わせて7回にわたった舞台を振り返っていた。
11月3日から4日間、6回にわたる名倉加代子ジャズダンス公演に出演させてもらった。全公演満席に近い観客の前で22年ぶりにサン・サーンス音楽・名倉加代子先生振付による「死の舞踏」を総勢50余名の精霊役の女性ダンサーたちと踊った。冒頭に12の鐘が響き、うずくまっていたダンサー全員が甦るように立ち上がり、息つく間もなく全編を踊り抜く激しい作品であったが、稽古でも1回通すだけでフラフラになるほど振りがびっしり詰まっていた。
今回本番で一番印象に残ったのが、作品の最後で夜明けの告げとともに精霊であるダンサーたちが一斉に崩れふたたび墓に戻るように倒れてしまうところで、リードオフを務める私が、また眠りについてしまう彼女たちを必死に呼び起こそうとする場面。最後には自分も倒れて幕となるのだが、その瞬間倒れているダンサーたちのまさしく激しく踊り抜いた直後の余韻がまるで魂のように浮き上がっている空気感を感じたのである。そんな素敵な空間に包まれた瞬間が忘れられない。
また前半のプログラム最後の「サマータイム」という作品にカンパニーのプロフェッショナルジャズダンサーたちと共演させていただいた。アメリカ西海岸の夏の夕暮れを場面設定され、人々がその光景を胸に想う気持ちを舞踊化させた名倉先生の新作でもあり、さすが長年師弟関係のなかで舞踊経験を積んだダンサーたちの表現力とテクニックが素晴らしく、バレエダンサーの自分では演じきれないものがたくさんあり、リハーサルで共演ダンサーの方々からのアドバイスを受けながら学ばせていただき、素敵な振付を踊らせていただいた。終演後名倉先生からは「充君ありがとう。」という言葉をいただいた。ありがとうとは私が言わなければならない言葉で、そんな気持ちに対して感謝の気持ちに溢れた。
名倉先生は公演ではピアノ演奏によるデュエットやジャズナンバーを次々とカラフルでお洒落でダイナミックに踊り、満員の観客を沸かせていた。まさかこの20年間ふたたび袖から先生の輝く踊りを見守るなんて想像しなかっただけに私にとっても今年1年のベストとなる思い出になった。
この最高峰のジャズダンス公演にお越しいただいた方々にあらためてお礼申し上げます。
(Dance Square http://www.dance-square.jp/nk1.html)