2017年2月
今年もローザンヌ国際バレエコンクールが行われた。今回も日本人受賞者を出し、これで12年連続だそうである。すごいのかどうかはわからないが、報道される一方で、このコンクールを目指しながらさまざまな理由で果たせなかったり、過去に悔しい想いをしているひとたちもたくさんいるのも事実である。このコンクールで入賞してもその後成功の道を歩んだ者は決して多くない。バレエは日本にとってまだまだ現実的に厳しいものがある。スポーツは優勝したりすると賞金がありうらやましい気持ちにもなる。ローザンヌコンクールもキャッシュプライズと言って賞金もあるが、コンクールに出場するために本人はもちろん自身に付き添う指導者の分までの日本とスイスの渡航費や滞在費がかかり、その費用であっという間に消えてしまう。私も過去2回に渡って出場したが、1回目は父、2回目は母が付き添ってくれ、よく思い出話ではあの時はお金がかったなぁと笑いながら話していたものである。そんな親に今でも感謝の気持ちを忘れないようにしている。
1月8日に日本バレエ協会関東支部神奈川ブロックに振付を委嘱されたバレエ「ライモンダ第3幕より祝典の場」を無事に上演することができた。今回舞台装置は宮殿を描いたドロップではなく、白を基調とした柱ジョーゼットと言われる中にイルミネーションを仕込むことができる立体的な宮殿を思わせる装置を飾っての上演となった。本番は主演の大滝ようさん、ロサンゼルスバレエ団の清水健太君、NBAバレエ団の山本晴美さんらが好演し大きな拍手をいただいた。この作品ではバレリーナとして活躍された沼田多恵さんがバレエミストレスとして携わっていただき、彼女の力なしでは上演を果たせなかったことを付け加えさせていただきたい。
2月18日19日と2日間にわたり大阪芸術大学卒業舞踊公演が大学芸術劇場で上演するため、1月から2月にかけてのべ2週間近く劇場を貸し切ってリハーサルを行っている。オペラ、バレエを視野に入れた本格的劇場でこれだけの期間独占して劇場レッスンからゲネプロまで出来るのは国内では新国立劇場ほか数ヶ所ぐらいで、私もアメリカやフランスでゲスト出演させていただいたバレエ劇場での生活を思い出し、自然と毎年この時期は張り切ってしまう。朝10時半から始まるレッスンでも私の友人や知人であるレッスンピアニストをお呼びして行いバレエダンサーたちも熱がこもる。彼女たちにとっても有意義で素敵な時間でもあり、月曜日から金曜日まで毎日クラスをするのだが、こちらも全霊を込めてるつもりが時として力が入りすぎてたまに説教までしてしまい、水を差すこともしょっちゅうですまない気持ちにもなる。そんな訳で「ああ、また言っちゃったな…」なんて夜ひとり大阪のホテルで反省する日々が続いている。
久しぶりに好きなフランス映画の話しをひとつ。現在全国の映画館で「ショコラ」が上演中で、この映画を心待ちにしていたので早速足を運んだ。ショコラとはフランス語でチョコレートの意。一見かわいらしいタイトルに聞こえるが、フランス史上初の黒人芸人ショコラことパディーヤというサーカス芸人の苦節の人生を描いた実話の映画化である。 愛と涙に満ちていて期待を裏切らなかったが、私がもっともこの映画で楽しみにしていたのは、主役のショコラではなく、サーカスで相方をつとめた白人芸人役を演じたジェームス・ティエレ。彼はローザンヌ生まれのなんとあのチャーリー・チャップリンの孫であり、このことは日本ではあまり知られてなく、今回の映画の宣伝でもあまり触れていない。彼は今は40代に突入したのだが、祖父が活躍したアメリカには渡らず映画の母国フランスで俳優として活躍している。その彼の人生も興味深いが、チャップリンといえば道化的な喜劇俳優としてあまりにも有名で、私も子どもの頃何度もテレビで見て彼の演技を楽しんでいた。父もチャップリンのことが好きだったようで好んで見ていたことを覚えている。私自身父が舞台人で二世としてこの世界に身を置かせてもらっているが、そのためか俳優、芸術家、芸人といった人たちの二世、三世の活躍が気になるところで、歌舞伎俳優などもそうだ。今回は祖父と同じような役どころまで演じているティエレだか、背かっこうまでチャップリンにそっくりで、迫真の演技を見せ楽しませていただいた。芸術家として血統とは何かということを含めとても学ばせられることが多く、また今やシルクドソレイユ全盛の時代だか、サーカスの原点を知る貴重な映画でもある。ぜひ足を運んでもらいたい。