2018年10月
季節外れの台風が続く。ここ近年の兆候なので覚悟というかあきれてきたというのかいつの間にか慣れてきたが、やはり東西の移動時にまんまと台風の進路にあたるとやきもきするものだ。10月にまたもや台風がやってきて朝早く京都へ向かう際も7時前から東京駅で40分ほど新幹線運転再開まで待たされた。バレエ専門学校が10時半から授業があるのだが、ところがそんな心配をよそに数時間後京都に着くやいなや遅刻してなるものかとかけつけたら京都の空や専門学校生の顔も晴れ晴れとして「あれ、あの嵐は一体どこへ?」と拍子抜けしてしまった。だがこのように期待外れな台風もまたしょっちゅうなのである。でももちろん災害は恐ろしく安全だったことには感謝している。
そんな天候が続くからか、美しい夜空に出会えると江戸紫を思わせる紺色の透明感にしいれる。仕事を終えた夜、大阪へ向かう飛行機の窓からもすぐそこにいる星や月にも出くわす。先日大学の図書館で美術に関するコラムを読んでいたらピエール・モンドリアンの「海」という絵に出会った。この絵は卵型の円形のかたちをした縦と横の線状に描いたキュピズムなのだが、副題に〈星空と海〉とつけられ、海と星の融合が描かれてあり、絵そのもののインパクトだけでなく、モンドリアン自身の創造力にも惹かれた。あのデザイン画のような手法を展開してきた彼が海を自身のボキャブラリーで表現しようとする意欲がかっこいい。先月の演奏会でもドビュッシーの「海」を聴いたがこの音楽もまた旋律はドビュッシー自身の色彩に溢れていた。芸術家の先人たちである音楽家や画家はみな独自の表現方法で”海”を描いてきた。よし、舞踊家である自分もこのタイムリーで旬なテーマに挑んでみようとひらめいたのはいうまでもない。自身の舞踊言語のみを拠りどころにし、星、海をそれぞれダンサーを分類し融合をさせようと…。
つねに自分の公演や大学、振付依頼されている舞台などさまざまなところで振付出品する機会を当たられて芸術家としてありがたいのだが、今回このテーマに挑む発表の場は母校の玉川大学芸術学部パフォーミングアーツ学科舞踊公演に定めた。こちらもありがたく毎年作品を4年生の学生たちに交じって振付させてもらって今年で10年目。このコラムでもたびたび登場する公演だが早速取りかかった。しかし玉川大学には今年度は大学の年度後半にあたる秋学期のみの出講でもあり、今回のいちばんの心配事が出演ダンサーであった。何しろ大学スポーツ同様大学バレエは、プロカンパニーと違い、いくら手塩かけて教育しても長くても4年しかいてくれず卒業してしまう。ましてや過去3年間、2年生のときから主力として踊ってくれた昨年の4年生が6名ごっそり卒業してしまって自身の弟子にあたるバレエゼミ生も今年は3名のみ。春学期も不在で、3年生以下ほとんど会ってもなく果たして人数すら集まるのだろうかと心配していたが、大学内でダンサーオーディションをしたところ何と29名が集まり、そのうちに16名が出演することになった。それでも3分の2ほどが堀内作品初めてという者ばかり…。しかししかし、蓋を開けてみるとそんな心配はどこへやらレッスン、リハーサルが始まると16名の女子学生ダンサーたちは見事な静粛さと忠実さを持って振付に挑み稽古に励んでくれた。これは舞踊芸術の素晴らしいところで、昨年までの卒業生たちの軌跡をしっかりとたった3名のバレエゼミ生がこのキャスティングメンバーに継承し統率してくれているのだ。古典芸術に触れる者はその芸術に嗜むだけでなく、次の世代に継承もしなければならないという役割を背負っている。だからメソッドやセオリーに常に忠誠し勝手な解釈を加えてはならないのだ。この大学舞踊でも社会に比べかなりの縮図ではあるが先輩から後輩へのバトンタッチがなされ、これがとても大切なことで、これはもちろん主任を務める大阪芸術大学舞踊コースでも行われている。こうして作品振付と同時に衣裳デザインと製作、装置デザイン、照明デザイン、音響編集操作のいずれも玉川大学生の各メンバーが加わり私の周りをずらりと囲み、リハーサルが進行した。そう、お気づきと思うが舞踊作品は振付家ひとりで作るのではなく、さまざまな者が集まり、知性を発揮して造られていくのである。
”舞踊芸術って素敵だ”
玉川大学芸術学部卒業プロジェクト舞踊公演「Splendid One~それぞれの物語」
・・・2018年11月28日(水)~12月1日(土)18:30開演 12月2日(日)13:00開演
玉川大学3号館演劇スタジオ(小田急線玉川学園前駅下車徒歩10分)
入場無料(要予約)
お問い合わせtel:0427-39-8092