2019年7月
7月の中旬に大阪芸術大学でオープンキャンパスという進学説明会のなかで、舞踊コースによるバレエ作品の上演会が大学芸術劇場であった。作品は「ラ・バヤデールより宮殿の場」と「近つ飛鳥の恋物語より蛍の踊り」の2演目を上演した。「ラ・バヤデールより宮殿の場」はバレエ・ダクシオンはなく、音楽や情景をもとにシンフォニックバレエとして改訂振付したもので、今回で3回目の再演となったが大学2回生である出演者は今持てる力をすべてを発揮してくれたのではないか。これから秋に向けて個々の水準を高めてほしいと願っている。もうひとつの「“近つ飛鳥の恋物語”より蛍の踊り」は約10分の小品であったが、舞踊コース3回生15名はこちらも全力を尽くして踊ってくれたのが嬉しかった。なお、この作品はこの春永眠された演技演出コースを長年教授としてご尽力され、小生も先輩教員としてお世話になり、大学教育の模範を示していただいた宮村一幸教授に生前の感謝の意を込めてこの作品を捧げ上演をした。
5月公演後はこれまで時間に追われ出来なかった劇場鑑賞を一気に再開した。舞台における世界では人間関係がもっとも大切で、公演にかけつけていただいた恩師、先輩、仲間などに対して、今度はこちらが激励やお祝いにそれぞれの舞台にかけつけなければならない。5月公演を終えた公演終了翌日の6月1日からその鑑賞ラッシュは始まった。
①まずは公演期間中でありながら本番にかけつけてくれた親友のKバレエカンパニーの「シンデレラ」全幕を観に渋谷オーチャードホールに足を運んだ。この作品は何度も再演し、その度に観させてもらっているが、今やアミューズメントのみならず、映画、テレビ、舞台でディズニーは巨大産業として世界を席巻しているが、夢物語のクリエーションは決してディズニーだけのものではない。彼はたったひとりで巨大なディズニーに挑むような素晴らしいバレエをつくりあげている。たとえば彼のバレエではシンデレラが初めてお姫様に変身してお城に入っていく1幕最後の場面では、観客を背に奥にある城に向かって嬉しさを隠し切れずにスキップしながらルンルンしながら入っていくのだ。こんなにも乙女ごころを表したシーンは他にはないだろう。この場面に象徴されるようにディズニーを凌駕しようとする姿勢が東京のバレエファンの心を打つのだ。終演後は渋谷のカフェバーでこの日の舞台と前日の舞台をお互い感想を述べながら杯を上げ楽しく語りあえた。
その後鑑賞した公演をざっと挙げると…
②舞踊界の大先輩である篠原聖一さんによるバレエ公演「篠原聖一のバレエ・フォー・ライフ」、バレエの名花下村由理恵さんの踊りが断然に光った。
③バレエ人生最愛の恩師、牧阿佐美バレヱ団「ラ・フィユ・マルガルテ」、ロマンティックバレエの名作、巨匠フレデリク・アシュトン版でバレエ団の得意とするレパートリー作品で完成度も高かった。
④昨年まで教員を務めていた京都バレエ専門学校の有馬えり子校長が芸術監督をされている京都バレエ団「カール・パケット引退公演ジゼル全幕」世界的ダンス・ノーブルの引退公演を目の当たりにし感銘を受けた。
⑤恩師のひとりである岡本佳津子バレエ協会会長が芸術監督を務めた井上バレエ団「シルビア全幕」、幻のロマンティックバレエの復刻を目指し、友人バレエダンサーでもあった石井竜一君が振付家として本格的デビューを果たした。重厚な作品であった。
⑥前出の親友が素晴らしい企画を立ち上げた海外で活躍する日本人ダンサーたちを集結させた「オーチャードバレエ・ガラパフォーマンス」、⑦同じく新国立劇場バレエ研修所・牧阿佐美所長が同じ企画で主催された「バレエ・アステラス」、どちらも今、海外で立派にプロフェッショナルダンサーとして活躍している面々が観れてこちらも彼らの存在や活躍ぶりを知るよい機会となった。なかでもハンブルグバレエ団プリンシパルダンサー菅井円加さんの踊りが魅力的であった。
⑧話題のブロードウェイミュージカル・劇団四季による「パリのアメリカ人」、主役を務めた男優はかつてバレエダンサーであった松島勇気君、活き活きとした踊りで観客を魅了、振付もアメリカンバレエ学校の後輩クリストファー・ウィールドンで高度な振付技法で作品の完成度も高かった。
⑨近年大阪で全幕バレエを演出・振付を手がけ、自分の関西のフランチャイズ的存在であるバレエ団のY.S.バレエカンパニー公演「ドンキホーテ全幕」、かつてアメリカ各地でバレエダンサーとして活躍した教え子である山本庸督君が演出・振付をし、自らもジプシーの場面で踊り、大車輪の活躍。同じく大学の教え子の高井香織も魅力的な踊りを披露してくれた。作品は3幕の結婚式の場面でバレエダクシオンではなく新たな舞踊シーンを挿入し独自色を示した。
ほかにバレエ発表会にも足を運び、先輩ダンサーでおられる鈴木直敏バレエスタジオ発表会.、堀内充バレエコレクション公演に多くの自身の教え子であるバレエダンサーを出演させていただいて舞台を支えて下さるバレエソフィア(大野輝美)サマーコンサート、そして昨年まで実に20年にわたり堀内充版バレエ・くるみ割人形全幕公演を宇都宮で上演し続けていただいた恩師でもある橋本陽子エコール・ド・バレエ発表会と続いた。
ざっとおよそ1ヶ月で鑑賞した舞踊を挙げたがこれらの舞台を観れたのも自身のバレエ公演に舞踊関係者の皆々がかけつけてくれたからで、その温情のお返しにただお礼を言うだけではなく、こちらも公演にかけつけることが大切なのである。舞台芸術は築き上げられた仲間の輪があるからこそ繁栄するのだ。お互い愛する舞踊芸術を披露しあい吟味し、また切磋琢磨して新たな創造に向かっていく。
仲間って素晴らしいな。