2019年11月
9月の上旬に松山バレエ団関係者から連絡があり、総監督・清水哲太郎先生から「話がしたいのでバレエ団に来てほしい」というメッセージを授かり、その時は大阪に滞在していたため、新幹線で帰京し、東京駅に着くなりバレエ団事務局の方に車で迎えられ、そのまま東京・青山にある松山バレエ団に向かった。バレエ団本部に足を運ぶのは実に久しぶりであった。そしてバレエ団に到着すると清水哲太郎先生が満面の笑顔で出迎えて下さり、隣りには森下洋子先生もおられ、またバレエ団員が総勢で迎えていただいた。一体何故なぜこのような素敵な出来事があったのか。話しは長くなるので省かせていただき、結果を言うと2020年3月20日神奈川県民ホールで上演する「新白鳥の湖全幕」の王子ジーグフリード役に出演することになったのである。その後応接室でおふたりと関係者を交え1時間ほど話し合いを持ち、大変たいへん光栄な責務を受け、身の引き締まるどころから言葉に言い表せないほどの思いで家路に着いた。かつてこのコラムの2016年7月号に書かせていただいたのだか、自分のバレエ人生のなかでもっとも大切で憧れであった恩師以上の清水哲太郎先生とふたたび舞台づくりでご一緒することになったのである。ましてや尊敬するプリマバレリーナ森下洋子先生と踊らせて頂くことになるとは人生ひっくり返して掘り起こしても思っても見なかったことである。この大役を引き受けるまでの心境やこれから立ち向かう胸の内を明かすには原稿用紙100枚あっても足りないのでやめておくが、翌日から不退転の決意でトレーニングを始めたのは言うまでもない。その後連絡を取り合い、リハーサルは10月から始めることになった。
渋谷公会堂といえば著名音楽アーティストのコンサートで有名でまさに音楽の殿堂といっていいほどの劇場だ。昔の話しになるが、以前ホリプロミュージカルでご一緒した沢田研二さんのコンサートに出かけ、いつも渋谷公会堂で開いておられたので個人的にも馴染みがあった。そんなメジャーな渋谷公会堂だが、数年前に老朽化で建て壊され、新たに劇場として新築してオープンすることになり、バレエスクールが渋谷にある関係もあり家族が親しくさせていただいている渋谷区洋舞連盟の宮﨑裕子会長の招きで、劇場のこけら落としイヴェントに堀内充バレエプロジェクトとして「ジャズコンチェルト」を披露させていただく運びとなった。「ジャスコンチェルト」は5月公演で上演し、大好評を博したレパートリー作品で外部からの要請がとてもうれしく、それもこけら落とし公演のトリ演目(最後を飾る演目の通称)で、出演者たちもその栄えある任務に再集結して毎回熱っぽくリハーサルに取り組んでいた。
ところが、である。今年は大型台風来襲に多く見舞われ、この公演本番日にも大型台風19号が押し寄せる予報が相次ぎ、ついには交通網が計画運休で遮断されることになり、街が封鎖される関係でこのこけら落とし公演が中止となってしまった。前代未聞の出来事で唖然としてしまった。いちばん心の打撃を受けたのは踊ることを楽しみにしてくれた出演者たちである。こちらの責任ではないにしろ申し訳ない気持ちでいっぱいであった。そんな無念?を晴らすために本番当日出演者たちと集まり、渋谷公会堂入り口で惜しかった惜しかったと悔しまぎれに写真を撮り、その後渋谷道玄坂にあるバレエスクールのスタジオで打ち上げならぬ残念会を小宴させていただいた。ただ… 、誤解を招かないよう言わせてもらうがそこではやけくそになって騒いだのではなく、バレエの美徳のように美酒に酔いながら楽しく過ごさせていただきました。
あしからず。