2022年4月

 東京新聞主催全国舞踊コンクールは10代の頃の思い出がある。バレエ・ジュニア部門で何度も出場したが、一番印象に残っているのは高校2年生の時、生意気盛りで周囲に大会前から「絶対に1位を取る!」と公言して臨むほど根拠のない自信に溢れていてほんとに今思うと恥ずかしくて情けない態度でバチがあたり、結果は2位。1位は現在新国立劇場バレエ団芸術監督の吉田都さん、彼女は当時からバランス、回転力は抜群ですばらしかった。そしてライヴァル関係にあった1つ年上の大倉現生君は3位、同じ1つ年上の貞松正一郎君も入賞1位と凌ぎを削る展開で今思うと貴重な経験であった。
そんな縁もあり主催者から審査員の依頼で今は審査員を務めているのだが、今年3月群舞部門に大阪芸術大学舞踊コース生4回生全員を出場させた。教える大学舞踊学生をコンクールに出演させるのは21年間勤めてきて初めてでもともと東京新聞コンクール担当事務局長から「堀内さんのようなバレエの群舞を審査する部門をつくりたいので審査員になってくれませんか」と話しをいただいた経緯があり、以来部門開設以降ずっと務めてきたが、実際にはほとんどがモダンダンス系の参加者がエントリーされていた。なかなかバレエがエントリーされない責任感もあり、またコロナ禍でも教え子たちは負けずに勉学に励んでいることもあり、そんな姿を東京の観客に見せたい思いもあって出場させることにした。コンクール審査前日に大阪より東京入りし、バレエスタジオHORIUCHIでリハーサルを入念にして、翌日コンクールに臨んだ。本番はさすがにダンサーは大学外で初めて踊ることもあり、踊り出しは緊張感を感じたが、徐々に日頃の力を発揮出来栄えとしてもよい踊りを披露してくれた。しかしながら結果は目標の入賞に届かなかった。出場を決めた当初は初陣として出演することに意義を持つことで全うするつもりだったが、みんな努力を重ねるうちに腕も上がり、いつしか結果を残そうという意気込みに変わってきただけに、アンコール公演に出演できるベスト3に入れず表彰式でも彼女たちの落胆した表情を見るのが辛かった。
 ところが、数週間後、同じコンクール審査を務めた秋田舞踊祭主催者でおられる川村泉先生より大学舞踊コースに出演依頼の連絡が入ったのである。川村先生は舞踊コース4回生が踊った「Flowers」の出来を評価して下さり、12月にある舞踊公演でぜひ踊ってほしいと。世の中にこんなことが起こるのかとこの連絡をメールを何度も読み返し涙が出てくるほどの嬉しさがこみ上げてきた。もちろん早速このことを本人たちに伝えたがコンクールから戻った当初はひどく落ち込んだ様子でどうしたら立ち直ってくれるだろうかとばかり思い悩んでいたのだか、その吉報を聞き一気ににこにこした表情に変わった。新学期となり最上級生となった彼女たちにとって最高のプレゼントとなったことは言うまでもない。この機会を教え子たちと人生の中でも数少ない貴重な経験となるよう全うする所存である。

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