2022年7月
大学で舞踊論を舞踊学生に教授して20年近くになる。自分自身学生時代はニューヨークのバレエ学校に籍を置き、舞踊大学のような舞踊論を学んだことは勿論なく、今授業展開しているものは全て独学で得たものである。授業ではテキストはプリントを配ることが多く、それは新聞記事だったり公演鑑賞したばかりのパンフレットだったり、あるいは舞踊関係の書籍だったりさまざまである。映像もよく見せるがアメリカ留学時代に手に入れた貴重なもの、あるいは自分が舞踊活動で展開してきた振付作品や踊った時の映像が多い。ここ数年は資料をもとに講義するより、時事的なものに対し話をまくし立てることが多くなってきた気がする。歳を無駄に重ねているせいなのか、あるいは舞踊女子学生が最前列を陣取り気を遣って綺麗な笑顔をつくってくれているのに、それに気づかず調子に乗っているからなのかはわからないが、いずれにせよあっと言う間に時間が経ってしまう。最近の関心事はもっぱらロシアのウクライナ侵攻でわがバレエの母国が大きく揺れていることである。その事について述べると、どうしても戦争の話は避けて通ることはできないのだが、この科目には舞踊専門以外の男子学生も多く聴講しているが、意外にも彼らが食い入るように話しを聞いてくれる。やはり男の子たちは闘いとか勇気とかには本能的に反応するらしい。女子学生に人気が集中するバレエの講義に思わぬところで男子にも興味を持ってもらえるようになってご機嫌になっている今日この頃である。
7月下旬に大阪芸術大学オープンキャンパス劇場上演会がオペラハウスとして自慢の大学芸術劇場で行われた。わが舞踊コースでは2回生による「ラ・バヤデール宮殿の場」よりグランパ・クラシックと「ウエスタンシンフォニー」の2作品を上演させていただいた。どちらも巷では名作レパートリーでもあるが、もちろん今回も小生が構成振付したオリジナル作品である。バヤデールは親友が全幕バレエを改訂上演したときに痛く心動かされ、自分もチャレンジしてみようと8年前にシンフォニックバレエとして振付をした。「ウエスタン・シンフォニー」は今回出来立てホヤホヤの初演だが大好きであった師バランシン版に誘発され一念発起してこの夏オリジナルをクリエーションさせていただいた。どちらもバレエ学生がこの数ヶ月コロナ禍を吹き飛ばす勢いで日々リハーサルに取り組んでくれて、約2年ぶりとなった客席数制限を取り払い満席で熱気あるなかでの上演で、見事に好演し拍手喝采を受け感慨深いものとなった。ひとつ、バランシン版「ウエスタン・シンフォニー」には思い出がある。この作品はニューヨークシティバレエ団の揺るぎない人気レパートリー作品なのだが、この作品に日本人として世界初出演を果たしたのが当時バレエ団日本人初のプリンシパルダンサーであった双子の兄堀内元で、彼の踊りは痛快そのものでアメリカン一色のなかひとりジャパニーズが登場し当時観客は大喝采。西部劇の中に日本人が紛れ込む光景はかつて日本の名作アニメ川崎のぼる「荒野の少年イサム」の主人公イサムとまさに重なり胸が熱くなったものだ。あの感動もあり、いつかやってみたいと思い今回上演念願が叶った。時は移り今では日本のバレエ団でも上演されるようになったが、失礼ながら出演者全員が日本人で、兄のあの時の衝撃的な姿を思い出してしまうためかどこか違和感を感じてしまう。ただこれはあくまでも個人的感情でもの申しているのでお気を悪くされたらお許し下さい。もちろん作品は素晴らしくバランシン版、堀内版どちらも観ていただきたく、機会あればぜひお楽しみくださいませ。