= 公演後記 =
もうすぐ公演が終わって1週間経とうとしている。公演を終え、約3ヶ月前に始動したプロジェクトも静かに幕を閉じた。今でも耳の奥ではカーテンコールの喝采の響きが残っているのか、また瞼の中にも薄暗いなか客席にいる観客から温かく拍手を送って頂いている残像があるような、自身の肉体にも踊り抜いた体感が身体を震わせながら少しずつ抜けていくような、そんな記憶に包まれ1日が過ぎていく。舞踊芸術のクリエーションの後はいつもこのような感触で幕を閉じていく。出演者、スタッフ誰もが感じるはずだ。
今年のリハーサルは最後の1週間は土日以外はほぼ毎日リハーサルを都内の広いスタジオで午後から出演者全員が集まり、全作品を通しながら4時間近く行った。今回は1ヶ月前から度々このかたちで稽古を始めた。出演者50名という大人数がひとつのバレエスタジオに最初から最後まで過ごす。
20年程前、東京音楽祭と銘打って東京・サントリーホールで東京都交響楽団の演奏会に招かれ井上道義先生指揮によるストラヴィンスキー作品を踊ったことがあり、その時も最終リハーサルのため最後の数日間、交響楽団員と過ごしたのだが、リハーサルのためこちらは早々とウォームアップをするため音楽室に入っていたが、ひとり、またひとりと楽団員が入ってきて黙々と楽譜を照らし合わしたり、チューニングを始め音を出し始める。やがて次々と入ってきて最終的に何十人という数の演奏家が集まり、チューニングも大音量となったが、ひとつの作品にこれだけの人たちが集まり、音楽が出来上がっているのかと驚いた。そしてマエストロが登場し、静寂になりいくつかの指示のあと、沈黙が走り、最初の大きく振られたタクトと共に一斉に音楽が音楽室一杯に広がる。これほどの数の人間がたったひとつの音楽に真剣に立ち向かっている。あの時の鳥肌が立った瞬間は忘れられず、「そうか、バレエもまさにこれなのだ」気づかされた思い出がある。そんな想いがあったからか思い過ごしもあるが、今回の稽古風景はそれと同じ空気感があった。リハーサルの終始、私も声を上げることもなく、また出演ダンサーたちも最初から最後まで作品に向かい、黙々と出番を待ち、踊り終えても残りの作品を見守る。全作品が終えたあと、それぞれがダメ出しに余念がない。そんな風景がたまらなく嬉しかった。ダンサーはひとりひとりがヴァイオリン奏者でもありフルート奏者でもあり打楽器奏者なのだ。今回の公演本番でもきっとそんな想い、姿が観客の心にも響いたに違いない。いやそう信じている。
出演者、スタッフ、そして観にいらして下さった観客の方々、エールを送って下さった方々、ありがとうございました。