2016年10月

 ジャズダンスといえば私にとっては子どもの頃から馴染み深いジャンルで、一言でセンス良くて格好がいい踊りで、バレエに相反するというか、拮抗したものというイメージがずっとあった。父親が長く舞踊界で活躍したなかでも、バレエ作品と同時にジャズダンスを融合させたジャズバレエ作品も多く残した。彼はニューヨークに1年間研修しジャズダンス界の巨匠ルイジのもとでダンステクニックを学び、帰国してからは以前よりもジャズダンスに傾倒してわれわれ家族が驚いたことを覚えている。ユニークバレエシアターも当時は朝のカンパニーレッスンは月水金はバレエクラス、火木土はジャズダンスクラスであった。父親の代表作であった「ジャズ・コンチェルト」は私もローザンヌ国際バレエコンクール受賞記念公演でも踊った思い出深き作品である。そんな経緯があり、ジャズダンスは私にとってはむしろバレエの姉妹芸術であるモダンダンスより身近であった。
 名倉加代子先生はジャズダンス界最高峰の舞踊家で、ジャズダンス通の私も?存じ上げていて定期的に行われていた青山劇場公演にもバレエ団の先輩に連れて行かれ観に行ったり、あるいは振付されている宝塚歌劇やミュージカルの公演にも足を運んでいた。洗練されスタイリッシュで脚線美に溢れたダンステクニックは魅力的でいつも観終えるたびにため息が出るほど美しさに満ちていた。
そんな憧れのなか1996年に名倉加代子先生から「充君、私の公演に出てくださらない?」と青山劇場舞踊チーフプロデューサーをとおして声をかけていただいたのだ。その頃名倉加代子先生は何度か私の舞台ものぞきに来ていただいたことを覚えているが、さすがに目に留めていただけたことはとてもうれしかった。
公演は毎回2部構成で、1部は60分ほどのストーリーあるダンスドラマ作品で、2部はオムニバス形式で10数曲からなる作品集であった。出演させていただいた公演では、<ある青年がダンスをすることを夢みて都会に出て来ながら、街の行き交う人々の冷たさに失望したあまり、交通事故で命を落としてしまう。そして彼が天国で舞踊教師であった神父(橋浦勇先生)と出会いその神父が青年の夢を叶えさせようとふたりでふたたび地上へ降り、舞台で主役を得て脚光を浴びる> ロマン溢れる作品で、クラシック音楽からジャズ音楽で綴った素敵な1幕ものであった。私はその青年役を踊らせていただいたが、私のロール(役の意)以外はもちろんジャズダンス手法で80名以上のジャズダンサーの踊りは圧巻。クライマックスのブロードウェイショーではサン・サーンス音楽「死の舞踏」を上演するのだが、そのダンサーたち総勢と踊り抜く瞬間はいつも苛酷で文字どおりタイトルそのもので踊り終えた直後は舞台上で吐きそうで固まってしまったことを覚えている。「充君の代表作になったらうれしいわ」といつも話してくれた言葉は優しく忘れられない。作品では踊り終えたあとはまた天国に戻り雲の上で満身創痍のまま倒れているのだが、名倉先生の優しさそのままが振付に表され、カンパニーメンバーの15名ほどのミューズの女性ダンサーたちが私を囲んで揺り起こし、最後に踊りを共にするシーンがとても心地よく温もりがこれまた忘れられない。
2部ではオムニバスで、「充君、私と踊って下さらない?」と言ってくださり、素敵なジャズを踊らせていただいたが、先生は真っ白のジャケットスーツで現れ、その姿はまるで月の神アルテミスのように輝いていてとても素敵な瞬間を踊り舞台上で共有させてもらった。こうしてかけがえのない6回公演にわたる舞台に出演させていただき、カーテンコールでも抱きしめてくださり、終演後「いつかまた必ずご一緒しましょう」と言ってくださり公演は幕を閉じた。

 歳月は流れ、今は2016年、あれから私は名倉先生と出会う前の頃に戻り、毎年ジャズダンス公演は客席で昔と同じようにため息まじりに作品やダンサーの美しさに見とれながらいつも観させていただいていた。あまりにも月日が経っているので、公演を観ているときにたまに、あの時の天国から舞い降りた青年役のように「あれは本当に夢を叶えさせてもらえた白昼夢だったんだなぁ」なんて想いふけたりもしていた。
と、ところが、である。来月11月上旬に新国立劇場で行われる公演にふたたび名倉先生から「充君、キャンスト(公演タイトルの愛称)にまた出て下さらない?」と声がかかったのである。それも「あなたの代表作をもう1度踊ってもらいたいのよ」と。自分でもあまりの驚きと嬉しさに高揚感をおさえきれなかった。この20年間名倉先生のあの時の別れの言葉を疑うことなく信じてきたが、まさに約束を果たしてくれたのである。偉大な舞踊家の姿勢とはまさに真性なる気持ちなのだとあらためて感じた。今回はかつてのダンスドラマは上演しないが、舞踊劇中のあの「死の舞踏」を踊らせてもらうことになった。自分の持てる力をすべて出すつもりでのぞもうと、現在再び名倉先生のスタジオに通いリハーサルしている。

ぜひみなさま観にお越し下さればと思います。

★名倉ジャズダンススタジオ第22回公演 「CAN’T STOP DANCIN’2016」

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