2017年4月
今年の日本の春はなかなか暖かくならず桜の開花も遅く、近年この地球温暖化によって卒業式の風物となっていたものが、久しぶりに4月の入学式シーズンに開花しそれがかえって、かつての自分の世代の頃の開花シーズンと重なり懐かしくもあった。
東京では今年も5月下旬に堀内充バレエプロジェクト公演を行う予定で、3月より公演リハーサルを開始した。今回もオーディションを中心に選ばれた女性・男性ダンサー総勢50名近くが出演してくれることになり、早くも熱気溢れる稽古が行われている。若いダンサーたちとのふれあいがうれしく、また今回はかつて10数年前まで私のリサイタル公演で長く共演してくれた大切な仲間である3名の女性ダンサーにも呼びかけ、久しぶりに同じ舞台に立つことになりとても楽しみにしている。
大阪では森友学園問題が連日報道され、塚本幼稚園が連呼されており、私の勤める塚本学院大阪芸術大学にも幼稚園が併設されているが全く別物で、春の辞令式の際、塚本邦彦学長が「よく勘違いされ迷惑だ」と仰っていたが全く同感でどうか間違えないでいただきたい。
3月はさまざまな舞台にかけつけることが出来た。松山バレエ団東京公演であり、森下洋子先生のジュリエット役を1年ぶりに観させていただきその美しい姿に堪能し、総監督清水哲太郎先生に終演後歓迎を受け、バレエ団の皆さんと記念写真まで撮っていただいた。哲太郎先生にはこのコラムに書いたように未だに恩返しができていないのだが、さすが世界的に活躍されてきた人格そのままに真摯な姿勢で温かいおもてなしを受けた。洋子先生にも「充ちゃんまたバレエ団にいらっしゃい」というお声がけをいただき、ただただ恐縮するだけであった。
今、国内モダンダンス界でもっとも注目を浴びる若手ダンサーで大阪芸術大学舞踊コース卒業生でもある前澤亜衣子と乾直樹君が主催するピース・オブ・モダンダンスカンパニー公演も素晴らしかった。これまでに数々の振付コンクールに優勝し、それぞれニューヨークへ文化庁在外派遣員として舞踊留学経験を持ち、振付活動を展開している新進気鋭の舞踊家で、今回で5回目の公演であったが私はこれまですべて拝見し、パンフレットにもふたりの活躍ぶりを執筆させていただいたこともあり、また以前にも大学舞踊公演に同時の在校生に彼らの活躍ぶりをみてもらいたくて東京から呼んでゲスト出演もしてくれた。特にふたりのデュエットのパートナーシップはクオリティーが高く国内舞踊界で文句なしのトップクラスだろう。近年無国籍な奔放なダンスが展開されるなか、この若いカンパニーの舞踊スタイルは美しい西洋的スタイルを保っており、バレエ出身舞踊家としてもとても嬉しい存在である。東京で素敵なスタジオ本拠も構えており、今後も目が離せない若手アーティストである。
Kバレエカンパニー・スプリング2017公演で親友が久しぶりに踊り、相変わらず客席を沸かせた。今回は10分ほどの新作小品に女性とデュエットを踊っただけだったが、オーラが突出しそれが美しく、また主題である音楽に反応するひとの心を巧みに表現していた。3月に私の大切な恩師を亡くしたときにも連絡をくれ、友人に対する温かい気遣い、励ましはやはり一流の芸術家の姿勢をみる想いでうれしかった。他に「ピーターラビットと仲間たち」や「レ・パティヌール」も上演し、かつてロイヤルバレエ団時代に踊った彼にとって思い入れのある作品を並べたことが自身のバレエ団の若いダンサーに対する愛情の証しに映り心動かされた。
スターダンサーズバレエ団でわが師ジョージ・バランシンの「セレナーデ」が上演されたがここでも私の大学の教え子である若手男性ダンサー宮司知英がリーディングロールを務めてくれたのも嬉しかった。
また同じ東京芸術劇場で行われた現代舞踊協会公演では私の同世代のモダンダンスアーティストである二見一幸君の振付作品「RITE-儀式-」に心惹かれた。昨年同じ公演で同じく同世代のモダンダンスアーティスト能美健志君の作品「春の祭典」も独創的ながら正統派で力強いインパクトを残し、同じ時代を生きる芸術家として励みになった。ふつう音楽界でも若いときからの贔屓のアーティストにはこちらが幾つになっても同世代の誇りとして一緒に追いかけ続ける。まさにふたりの存在はそれで私の誇りでもある。若いひとたちはこのように横のつながりを大事に共に歩みながら生きてほしい。
音楽界の話が出たのでおまけにひとつ。舞踊公演やオペラ公演鑑賞に飛び回る合間を縫って木村カエラのコンサートにもお忍びで?ひとりで足を運んだ。以前私のバレエ作品で彼女の楽曲を使わせていただいたぐらいファンで(同世代ではないのだが…)この春のツアーを楽しみにしていた。東京・国際フォーラムで行われたコンサートでは何と前から10番目をゲットした。実をいうといい席がとれすぎてしまったと言った方が正直な気持ちで、その日は昼間のリハーサルで疲れ気味で出来れば今日は座って楽しみたいなとかすかに思い始めた。だが当日コンサート会場客席は開演前こそまわりの観客は座って静かに待っていたのだが、隣の女性は10分ぐらい前から立ち上がって入念に腕や肩をグルグル回し始めてウォームアップを繰り返し、反対側の女性ふたりも静かに話をしていたのに、5分前になったらカバッとジャケットを剥いでカエラTシャツになって高揚感丸出しで立ち上がった。そしてカエラ本人がステージに登場するとやはり全員総立ちでコンサートは始まった。私はもちろん?甘い気持ちを捨てて立ち上がり、こちらは世代を超えて声援を送りコンサートを楽しく楽しく堪能したのだった。