2018年7月
今年の夏は酷暑でまた台風や豪雨で大変である。日頃から東京を拠点に関西や北陸に出向く事も多いが、暴風警報で大学が休講になったり、また交通機関も乱れてあらかじめ用意しておいた空の便や特急が欠航になったり運休になったりで、夏に向けたバレエ公演のリハーサルにも遅れが出てやきもきさせられる。舞台づくりに関わる人たちも本番から逆算して稽古日程を組んでいるので、1回のキャンセルでもリハーサル進行に少なからず影響を受けてしまう。自然には逆らえないとはいえ、それぞれの公演でも一期一会の大切な舞台である。身の安全とともに大事な舞台への心配事も尽きない。
バレエコレクションが終わってからもこの夏全幕バレエの演出が続き稽古に追われながらも、相次いでバレエやダンス公演が続き、自分にとっても追憶を感じさせる舞台が相次いだ。
東京バレエ団が6月下旬ブルメイステル版「白鳥の湖」を上演したが、大阪芸術大学で教えた教え子たちが活躍していることもあり楽しみに出掛けた。バレエ白鳥の湖はプティパ/イワノフ版がいまでも主流だが、ブルノステイル版も近年上演されることが多くなってきて、自分自身も本家ロシアバレエで何度か観させていただいている。特徴は何といっても3幕のスピード感溢れるディベルティスマンだろう。そしてどの踊りもダンサーの視線は真っすぐに観客席ど真ん中に向けられ、各曲踊り終えた舞踊手たちもアップステージ(舞台奥のことを指す)にずらりと並べられ、ポーズを取りながら繰り広げられる踊りを前に一心に観客に視線を送る。この壮観な姿に誰もが心を打つ。有名な黒鳥のグランフェッテもスペインのエスパーダたちが両脇でフラッグを回転の妙技にエールを送るごとく大きく振るシーンは圧巻でオディールのフィニッシュとともに拍手喝采となる。この場面は間違いなくかのプティパ版を超えた演出であろう。当日のオディール役の川島麻実子さんの踊りもダイナミックで着地も決め見事であった。
前述したが大学の教え子が数名出演しており、1幕パドカトル(プティパ版のパドトロワにあたる同じ楽曲)で樋口祐輝が高い跳躍で表情も温かく客席からも多くの拍手を受けていた。客席と言えばこの公演では極端に1階席前列の下手側の端から観させていただいた。べつに発売から遅れて手に入れたわけではなく、愛弟子でかつて堀内版ロミオとジュリエットでジュリエット役を踊った工桃子がバレエ団員として在籍しており、彼女の舞台はよくかけつけるのだが、バレエは同じ衣裳で同じ振りで踊ることが多くいつも「ちゃんとわたしを見つけてくれた?」とよく疑心暗鬼に尋ねられてしまう。そのためか今回は彼女が白鳥のコールドバレエで並んだり踊るポジションが上手の後方だったため「私をしっかり見てください!」と言って嬉しことにわざわざ用意してくれたのだった。で、はい、おかげでよく見え、白鳥の雛たちの姿も華麗で、またナポリ役でも彼女の持ち味であるキレのよさも堪能できた。もちろんいつもよりカーテンコールでは惜しみなく愛弟子に拍手を送った。