2020年1月(1)
松山バレエ団「新白鳥の湖」公演に向けてリハーサルが始まった。一番最初に振付をいただいた場面は1幕王子の登場シーンで、バレエ団員とともにその場面を清水哲太郎先生と時間をかけて教わった。この作品は松山バレエ団のレパートリーとして毎年上演されているので、バレエ団員は全員振付を熟知されており、実際は王子役の振付の入れ込みというかたちで私中心のリハーサルで、この場面のみならず、2幕の湖畔の場面も同じように王子が登場する場面を抜粋しながら稽古をつけてもらった。何よりチャイコフスキーの名作の音楽が心地よく、ただ古典バレエといっても「新白鳥の湖」というタイトルどおり清水哲太郎先生のオリジナル版として振付られている。哲太郎先生も「2幕のレフ・イワノフ版は素晴らしく手を加えようがない」と話していたが、1・3・4幕は音楽の構成から振付までほぼオリジナルで、こちらも古典作品に挑む以上に清水哲太郎先生独自の振付作品と向き合う姿勢で臨んだ。主役の森下洋子先生とのリハーサルはバレエ団の「くるみ割り人形全幕」の大阪、東京、神奈川公演が控えていることもあり、本格的には年明けから行うことになった。
実はその大阪フェスティバル公演に私と教え子10数名で観させていただいたのだが、松山バレエ団版はとてもクオリティが高く、またアーティスティックであり、エンターテイメント性も豊かで、何よりも夢が感じられ衝撃的であった。そしてバレリーナの名花・森下洋子先生の素晴らしい踊りはもちろん、バレエ団員の力も大きく、今年観たバレエ公演のなかでもっとも印象に残るものであった。
今年の年末もバレエ界はその「くるみ割り人形」のシーズンに突入した。一昨年まで堀内版「くるみ割り人形」もこれまでに宇都宮や福井、京都、横浜でさまざまな都市で20年にわたり上演してきたが、今年、といっても来年正月明けだが、東京・渋谷で上演する運びで秋からリハーサルを重ねていた。宇都宮で上演させていただいた当初、20年前は演出振付だけでなくタイトルロールの王子役まで務めていたが、その後は振付に専念していた。しかし今回は堀内充バレエプロジェクトとゆきともバレエスクールの共催で、日頃顔を合わせているこども達のためにも自身で初めてドロッセルマイヤー役も務めさせてもらった。バレエくるみ割り人形の良さはなんと言ってもこどもたちに向けたメッセージで世代を超えて愛されているバレエだということだろう。観客側にいてもそうだが、創る側からもこども達のバレエに向かう熱い気持ちが感じられる。毎回のリハーサルでも彼女たちはつねに全力投球で踊り、演じてくれるのが嬉しい。この作品もレフ・イワノフが原振付となっているが、堀内版は最初から最後までほぼオリジナル振付となっており、私の得意分野であるシンフォニックバレエも雪片のワルツや花の精のワルツで展開させ、グラン・パ・ド・ドゥも新解釈で創らせていただき、毎年5月に行っている堀内バレエコレクションにレギュラー出演してくれている愛する女性・男性バレエダンサーたちに出演してもらい、作品に華を添えてもらった。バックステージスタッフである舞台運営、照明も、横浜の木村公香先生のアトリエ・ドゥ・バレエ公演で上演した時のメンバーで固め、盤石の体制で臨ませてもらった。
大阪芸術大学舞踊コースでも12月は舞踊コース2回生学内公演を毎年上演しているが、私がこの大学に着任してから初めてクリスマス・イブに公演本番となった。例年どおり「ラ・バヤデール影の王国より幻影の場」を上演したが、このバレエの初演はロシア・サンクトペテルブルクだが、その時の主役ソロルを踊ったのがなんとレフ・イワノフだったのである。バレエダンサーとして、舞踊家として金字塔を打ち立てた彼が踊ったこの役は今なお男性ダンサーの憧れの役でもある。ここ舞踊コース公演でも毎年若き20歳の男子学生が務めるのだが、今年も2回生の木下大輔君、邉田陽大君がダブルキャストでそれぞれ堂々と踊っくれたのが頼もしかった。女子学生たちもあの美しきヒマラヤ山脈から降臨するバヤデルカをひとりひとりが夢幻の世界を醸し出すように心を込めて踊った。
なお公演演目最後にはフィナーレとしてクリスマスイブを飾るルロイ・アンダーソン音楽によるジングルベルダンスを振付し、かつてニューヨーク・マンハッタン・ラジオシティホールで観たクリスマス・スペクタキュラー(聖夜ショウ)ばり?のサンタクロース風ショーダンスを踊り観客から大きな拍手を受けていた。