2022年3月
今年の2月も体が冷える。ダンサーにとっては体調管理が難しい季節だが、北京オリンピックではフィギュアスケートは氷上でわれわれと同じような薄くて柔軟性の効く衣裳に身をまとい華麗に舞う。私のバレエ作品でもタンクトップにクラシックチュチュ、あるいは短いスカート付きレオタードだったり薄着で保温性は無く、舞台直前まで上着が離せないことが多い。でも身体のイデアこそがバレエの美学でもあり、人々の心を揺さぶるのだ。ダンサーは季節にとらわれず常々身体、体調のコンディションに気を遣わなければならないのである。
2月下旬今年も恒例の大阪芸術大学舞踊コース生70名による第37回卒業舞踊公演を上演した。芸術監督を務めてちょうど20回目となった。ふつうプロ野球でも監督を10年務めるのは偉業で日本ハムの栗山監督も10年の節目を持って昨年退任された。この公演の初代芸術監督であった横井茂名誉教授も17年務めて退任され、誰かこの小生をたまにはほんの少しでも労いの言葉をかけてくれるひとが現れるといいのだがなぁ。
今年2月の公演では前号までに伝えたとおり、フランスよりパリジェンヌたちのの喜び、ロシアよりチャイコフスキー組曲、アメリカよりウエストサイドストーリー、ブラジルよりサンパウロ組曲と世界各国の音楽による作品ラインナップとなり少々悦に入ってしまうほどの華やかさで、ダンサーたちは豊富な練習量を経て完成度の高い作品つくりあげ踊り抜いてくれた。巷では折りしも映画「ウエストサイドストーリー」がリメイクされ話題を呼んだがそんな時と上演が重なり、私や出演者たちの意気も高揚したのは言うまでもない。「チャイコフスキー組曲」も中国出身の美術学生デザインによる舞台装置が新たに彩られ、シンフォニックバレエをさらに視覚的に美しさを高めた。京都で活躍するピアノ音楽家宮下和夫先生が本学非常勤講師を退職されるラストワークとして、彼自身がブラジルを訪れたときに作曲された甘味な旋律溢れる「サンパウロ組曲」から選曲し、「サンパウロの空の下で」を新たに振付し発表させてもらった。宮下和夫先生の生演奏と純白なレオタードに身を包ませ踊る舞踊生女子ダンサーの重なる姿が印象派の絵画のような雰囲気を醸し出し観客の心を温めた。そして再演を重ねてきた亡き母が衣裳製作を手がけた「パリジェンヌたちの喜び」を今年も卒業ラストステージとして4年生ダンサーたちがフレンチカンカンを華麗に舞った。
この大学舞踊公演も、また東京で展開する堀内充バレエコレクション公演も古典バレエ作品に依存することなく、すべてオリジナル作品を上演することを目指してきた。公演のフィナーレで心を込めてレヴェランスをする彼女彼らの姿を目に焼き付けながら(仕方なく自分ひとりで労いながら?)惜しみない拍手を送らせてもらいました。
さあ、来月からは今年10年目を迎えるバレエコレクション公演の準備にかかります。愛するバレエダンサーたちのみなさまよろしくお願い致します。そしてまた今年もかけつけて下さる観客、読者の皆さまもうしばらく公演まで楽しみにお待ち下さい…。