堀内 充の時事放談

バレエダンサー・振付家・大学教授として活動を続ける堀内充の公演案内です。
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●2022年2月
今年の冬は寒さが身に沁みる。東京が大雪の時は大阪にいたので大丈夫であったが、数年前に大学の通勤で積雪のために車が動かなくなり、愛車を一晩路上に置き去りにした恥ずかしかったことが脳裏に浮かぶ。それでも屋外と室内の寒暖差は人間の温もりを感じさせてくれる。中学、高校生時代にアメリカやスイス、ロシアへバレエコンクールや研修で真冬によく行ったものだが、雪が降り積る厳寒のなかでも建物やとりわけ劇場の中はとても暖かくポカポカして西欧の生活習慣の豊かさを実感した。当時日本はまだエアコンも発達していない頃で室内も寒くこたつの中でじっとしていたことが当たり前だった時代でバレエが生きる国々の文明の高さに憧れたものだった。今でこそ日本も室内は温かいのだがたまに寒暖の差を感じるほどの部屋に入るとあの頃の温もりを思い出す。今は亡き父と母が付き添いで一緒に旅行してくれたことやバレエに向かう夢も大きかったことも… 。
年明けに続き劇場鑑賞が止まらない。能楽・不朽の名作「高砂」と「羽衣」を国立能楽堂で鑑賞した。名門梅若家による研能会で上演されたが、中でも「羽衣」は夢幻で美しく能楽を超えさまざまな芸術分野でこの題材が取り上げられバレエでも内外の振付家が挑んでいる。今回は梅若紀佳が舞を披露したが落ち着きのある一挙手一投足で魅了し、26歳の若き女流能楽師の今後に期待したい。
本職のバレエ公演も足繁く通い、新国立劇場バレエ団ニューイヤーコンサート、松山バレエ団新春公演、Kバレエカンパニー公演と渡りバレエ三昧となった。東京シティバレエ団も行く予定でいたが新型ウイルス感染下で公演中止となり心が傷んだ。
「テーマとバリエーション」は新国立劇場バレエ団登録ダンサー時代にも上演されたが出演機会には恵まれなかった。師である振付家ジョージ・バランシンの名作でニューヨークのバレエ学校時代何度も観た作品。あの頃は年上の先輩ダンサーたちが踊っている姿に憧れを抱き、今は下の世代の若いダンサーが踊る姿を目に触れ、こうしてバレエ作品が時代とともに受け継がれていることに感慨を覚える。人間はいつまでも踊り続けることはできないけれども下の世代に継承させていくことが芸術家として使命でもあるのだと感じさせてくれる瞬間であった。
「シンプルシンフォニー」もまた私の好きな作品のひとつ。親友の熊川哲也君の数少ない短編シンフォニックバレエ作品だが、お洒落で実にかっこいい。踊るダンサー、振付、衣裳、舞台美術すべてがセンスよく高い美意識がたまらない。この日プリンシパルダンサー成田紗弥が美しいポールドブラと足さばきで観客を魅了した。この作品はアシュトン作品かと見間違えるほどの国際的感覚に溢れロイヤルバレエ団でも上演すべき作品でもある。また新作ロマンティックバレエ「クラリモンド〜死霊の恋」もすてきな出来栄えであった。果たして舞踊評論家でもここまで原作を把握していただろうかと思うほど振付家としての見識の高さも舌を巻く。主人公を演じたバレエ団新加入プリンシパル日高世菜の非凡な才能も開花させダンサー想いの彼の側面も感じられた。
ちょうど1年前東京で踊らせていただいた松山バレエ団・清水哲太郎先生演出・振付「新白鳥の湖」全幕も堪能させていただいた。今回の主役は昨年夏に全幕「ロミオとジュリエット」で上演されたように入れ替わり立ち替わり主人公を黄金リレーで繋いでいく形式のもの。2年間バレエ団で共にレッスン、稽古を積ませていただいた素晴らしき仲間のバレエ団ダンサーのみなさんの熱演に心打たれた。清水哲太郎先生の白鳥の湖に対する造詣の深さに匹敵する専門家もいない。言うまでもないが皇太子ジーグフリードを踊らせていただいたことは私の一生の宝である。下旬にはふたたび半ば私の趣味となっているオーケストラ鑑賞。何度もこのコラムに登場する大好きな大阪フェスティバルホールで大阪フィルハーモニー交響楽団演奏会が「アメリカンプログラム」と題してジョージ・ガーシュイン特集が組まれ、これは聴き逃すまいとちょうど来月卒業舞踊公演でウエストサイドストーリーを踊る教え子ダンサー女子学生20名を学外授業として、夕方まで大学でレッスン、リハーサルをしたあとに大阪地下鉄に乗り継ぎながらフェスティバルホールに乗り込んだ。毎年大阪芸術大学演奏会はやはりフェスティバルホールで上演され、演奏学科学生が演奏する姿を舞踊コース生総勢で聴くのだか、ここ2年このコロナ禍で演奏会はなく、そんなこともあり1学年だけではあったがよい機会となった。演奏会は鑑賞席はふつう5千円前後なのだが、大学生は何と千円のみ。それが大阪フィルのすばらしい姿勢でもあり、この日は楽団の配慮もありフェスティバルホール客席横一列ずらっと並び鑑賞した。この日は名曲「ラプソディ・イン・ブルー」を聴くことが出来たが、大学舞踊公演でも振付したレパートリーでもある。ピアノ演奏は中野翔太。ニューヨークの名門ジュリアード音楽大学出身だけあってアメリカナイズされた演奏ぶりを堪能。ヨーロッパで研鑽を積んだ演奏家は西欧の音楽を得意とするように、アメリカで学んだ彼の演奏スタイルはガーシュインを知り尽くしているのかもしれない。ところで私がニューヨーク留学時代、バレエ学校はこのジュリアード大学の構内のなかにあった。大学食堂はひとつでバレエ学生と音楽学生とよくとなり合わせでランチを食べていた。時代は違うが彼もあそこで青春時代を過ごしていたのかなぁなんて思いめぐらしているうちにどこか親近感を抱き、演奏後の彼の姿に教え子たちと共に惜しみない拍手を送った。
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●2022年1月
2021年も終わりとなった。12月21日に大阪芸術大学舞踊コース学内公演を終え、終演後全舞踊教員と全舞踊コース生による1年の総括となるミーティングを行い、その後一斉に大学冬期休暇に入った。大学生は学業から離れ骨休みとなるが、このコロナ禍で少しでもゆっくり休んでもらえればうれしい。
個人的な話に移るが小生は昨年一昨年と松山バレエ団公演の全幕公演出演のためのリハーサルが年末年始休まず続いていた。つい2年前まではバレエ「くるみ割り人形」全幕バレエ公演の演出・振付が毎年クリスマスに必ずあり、新年は青山劇場主催のファミリーオペレッタ公演の振付、バレエコンクールの審査員を務めたりと年末年始はここ20数年余り多忙な日々を過ごしていた。そんなこともあり今年はこの状況下でもあり、また健康管理も考え休暇を取らせてもらった。といっても舞踊家としては骨休みしても大学教授として研究はやりたい。師走のなか走りくぐり抜けるようにあちらこちら劇場鑑賞に奔走した。
演劇公演で毎回楽しみにしているパフォーマンスユニットTWT「Nice buddyー駆け抜けて激情」が中旬から下旬にかけ上演された。かつて玉川大学芸術学部舞踊公演で助手として私の舞踊作品を支えてくれた木村孔三君が、今やこの劇団の主宰者として演出活動をしており公演にはいつもかけつけており2年ぶりに鑑賞させていただいた。ユーモアたっぷりでまた落としどころもしっかりと演出され、舞踊を慕ってくれた当時のまま、今回も踊りの場面が挿入され期待を裏切らずたまらなく楽しませてもらった。
松山バレエ団は恒例のくるみ割り人形全幕。昨年3月新白鳥の湖を松山バレエ団公演で踊る予定だったが新型ウイルス感染拡大で中止になった神奈川県民ホールでクリスマスイブに上演された。2年間バレエ団と共にした時間が多かったこともあり、仲間意識というかそんな親近感があり、感慨深く観させてもらった。2幕のお菓子の国の美術がとても素敵でまるでベルギーのチョコレートの包装紙のように色彩豊かで観客もその場面になるとあまりにもその美しさに息を呑むほど。清水哲太郎先生の演出も際立ち、ラストのクララとドロッセルマイヤーの別れの場面でもクララが別れを惜しんで泣き続けて幕となる。人間の心理の核心に触れたシーンで感動せずにはいられない。
NOISM・Nigata 東京公演では「境界」を主題に金森穣・山田うんによる振付作品を、12月26日池袋にある東京芸術劇場で上演された。金森穣君は昔父のスタジオで私が教えていたジュニアクラスに通ってくれた教え子のひとりであった。クラシックレパートリーのバリエーションなどを丁寧に教え、発表会では私がかつて着ていた自前の王子の衣裳を着させて踊らせたこともあり、今となってはよい思い出。その後ベジャールのもとで研鑽し、アジアを代表するコリオグラファーとなりダンスカンパニー・ノイズム新潟を拠点に活躍を続けている。お父様の金森勢先生は私の叔父的な存在で、父が主宰したユニークバレエシアターのトップダンサーとして、また俳優やフジテレビ人気子ども番組「ピンポンパン」のお兄さんとして活躍、人気を博していた有名人でもある。今でも親交が続き大阪芸術大学卒業公演にもかけつけてくれたほど。今回拝見した公演では家族席の1席をわざわざ取って頂いた。穣君作品はさすが一流の振付家とあって緻密に練られ、映像を交えた手が込んだものでとても見応えがあった。年明けて東京文化会館大ホールでニューイヤーコンサートと銘打った演奏会にも出かけた。演目はラフマニノフ・ピアノ協奏曲第2番、ジョルジュ・ビゼー「アルルの女」ほかで指揮者は飯盛範親、ピアノ演奏は萩原麻美未であった。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は美しい音楽で魅せられバレエに幾度となく使用したことがあり、この演奏会で聞くことを楽しみにしていたが、期待どおり実に旋律が甘味でしっとりと聞くことが出来た。萩原麻未の演奏は定評どおりアカデミックでなおかつ力強く魅力に溢れて素晴らしいものであった。
私の祖父がつくった掛け軸がバレエスタジオに飾られており、そこには美しい楷書で書かれた言葉がある。
「踊りは無言の音楽 音楽は見えざる踊り ジャンパウロ 父学半書」
これは学半・祖父が舞踊家を志した息子である父に授けた書なのだが、この心に沁みる言葉が今回の2週間にわたるさまざまな分野の劇場鑑賞のたびに脳裏を横切り、素敵な思い出となった。 -
●2021年12月
11月から12月にかけ気温も下がり寒さを感じるようになった。感染者も抑えられてきたようだが、周りは依然感染慎重に対策が取られている。11月から年末にかけて東西の大学で3つの大学舞踊公演があり、舞踊学生にとっては1年でもっとも大切な舞台なのだが、玉川大学芸術学部パフォーミングアーツ学科で行われた舞踊公演では観客席のソーシャルディスタンスは解かれたにも関わらず、舞台上のダンサーたちはマスク必須での上演が続き、それを見守る側にとってはとてもとても心痛ましい限りであった。何とかさまざな方法を探りながらマスクを外して踊らせてあげられないものかと学科研究室に直訴したのだが受け入れられず巷のスポーツ界や劇場では演じる側はすでにマスクなしで行っているだけに残念で他ならなかった。玉川大学舞踊公演では今年も自作の振付作品を発表させていただいたのだが、踊るダンサーたちは健気に1年に1回の晴れ舞台を懸命に務め、そんな若い彼女たちに最大の拍手を送った。あなたたちの姿は永遠に忘れないと心に誓いながら…。
一方12月には大阪芸術大学舞踊コース3回生20名と2回生14名がそれぞれ単独で舞踊公演上演を果たした。こちらは舞台上では通常どおりに踊ることが出来たが、大学が誇る美しい芸術劇場の客席は残念ながら入場制限が敷かれていた。それでもこの状況下公演が達成できたことに感謝していますと舞踊コース生たちは終演後口を揃え、そんな姿に心打たれた。巷の報道では若者たちの活発な行動が感染要因として指摘されているが、これらのように私の周りはこの有事ともいえる事態の日々をしっかりと受け止め、社会に勇気を持って立ち向かって生きている若者たちの姿で溢れている。暗示される未来の社会は暗いことばかりではなく、彼女たちのような存在がいるからこそ希望を抱くことができるのだ。今年1年も多くの振付作品を上演させていただいた。
ヴァイオリンコンチェルト(ブルッフ音楽)
グラズノフ・スイート(グラズノフ音楽)
ピアソラ組曲
カルメンよりジプシーたちの踊り(ビゼー音楽)新世界(メンデルスゾーン音楽)
バラード/ショパン〜幻想と夜想
コンダクト(ブリデン音楽)ラ・バヤデールより宮殿の場(改訂版)
花の精たちのワルツ(チャイコフスキー音楽)グラズノフ・スイート(新国立劇場版)
月光(ベートーヴェン音楽)小佐野圭先生演奏
星空と海
ウエストサイドストーリーよりシンフォニックダンス(バーンスタイン)
サンパウロの空の下(宮下和夫音楽)
チャイコフスキー組曲
とバレエ15作品〈新作5作品〉を上演させていただきました。年間を通してこれだけの作品を一般の観客の方々にお見せできたのも踊ってくれたダンサーたちの生身の身体があるからこそで、演じてくれた100名を超えるバレエダンサー、舞踊学生たち彼女ら彼らに心より感謝致します。
そして皆さまにとって新しき年が幸多きものとなりますよう祈念致します。 -
●2021年11月(2)
恩師である牧阿佐美先生がご逝去された。バレエ界に身を置くことが出来たのも牧先生のおかげである。9歳の時から牧先生が主宰しておられた日本児童バレエという全国で本格的にバレエを学ぶ児童を対象に、より高度な教育を受けさせることを目的とした機関がつくられ、母親の考えで勧められ毎週日曜日にレッスンや舞台に向けた稽古に参加していた。
実は自分にとって劇場の初舞台もその日本児童バレエ第1回公演の時に何と10歳にしてNHKホールで牧阿佐美先生振付「マチネコンサート」という作品でデビューさせていただいた。今でも忘れられないのが袖から双子の兄と揃って走り込んで舞台上に現れたのだが、そこでいきなり大きな拍手と歓声が起こり、自分でも予期せぬことで興奮して踊ったのを鮮明に覚えている。しかしあの紅白歌合戦が行われる実に広いステージに小動物のようなちびふたりが走り込んでくればお客も喜ぶに決まってるなと今考えてみれば納得がいく。そんな時空間で踊る機会を与えて下さり、その時にもうすでに一生バレエの世界に身を置く運命を神様から授けられたようなものであった。
阿佐美先生は今でも時あるごとに親交を続けさせていただき、本欄でも述べさせていただいていたが、最後にお目に掛かったのが、やはりお世話になった新国立劇場で、この春に舞踊部門の企画会議でとなりに座らせていただいた時であった。ここ最近会議には顔を出したり出さなかったりで心配していたが、その時は元気で「充ちゃん、今日もよろしくね」と40年以上変わらぬ姿勢で臨まれていた姿が忘れられない。
訃報を聞いて落ち込んでいたときに親友の熊川哲也君から連絡があり、「悲しいね」と気に掛けてくれ、ならばということでふたりで牧先生へお別れしに中野にあるご自宅に挨拶に伺わせてもらった。またちょうど日々青山にある松山バレエ団に公演稽古で通っていた時で、清水哲太郎先生とも師を悼み、公演のなか牧先生を追悼する機会をつくって下さいました。毎年行っている自分のバレエコレクション公演では亡くなった恩師をトリビュートすることが多いのだが来年の公演では先生に捧げる作品をひとつ上演するつもりである。 -
●2021年11月(1)
先日11月3日、日本青年館ホールにて松山バレエ団公演「森下洋子舞踊生活70周年祝賀記念会」に出演、無事に終えました。清水哲太郎先生振付による新作3作品にいずれも森下洋子先生と踊らせていただきました。なかでもシャンソン歌手イブ・モンタンの名曲「聞かせてよ愛の言葉を」とウェーバー音楽「舞踏への勧誘」のふたつのデュオに対して盛大な拍手をいただきました。ひとえに清水哲太郎先生・森下洋子先生ご夫妻と松山バレエ団団員、スタッフの総力があったからこそで、この1年、「新白鳥の湖」「ロミオとジュリエット」そして本公演と3公演で踊ることが出来、心より感謝致します。
【写真】「Waltz/覚悟」音楽:舞踏への勧誘
・・・檜山貴司(©︎エー・アイ) -
●2021年10月
10月5日に母校玉川学園で奏學祭と銘打った音楽コンサートがあり、昨年9月に堀内充バレエコレクション公演で上演したベートーヴェン「月光」を演奏していただいた玉川大学芸術学部長小佐野圭教授の招きで再演させていただいた。
何と母校で踊るのは玉川大学で大学教員を16年務めている中で初めてで、出身の玉川学園中学部・高等部時代含めても踊ったことはなかったので感慨深くもあった。当日は大学が保有する客席数300名ほどのユニバーシティコンサートホールでさまざな演奏があり、演目の最後に登場させてもらった。あいにく本番は一般の観客はほとんど入れられなかったのたが来月動画配信される予定で、ぜひご覧いただきたい。
前日のゲネプロでは日頃バレエを教えている玉川大学舞踊生約20名を客席に呼び教え子たちに作品、自身の踊りを見せることもでき、お招きくださった小佐野圭先生に感謝したい。
偶然にもバレエ月光を上演したときに併演した「シンフォニックダンス」も、こちらは大阪芸術大学舞踊コース公演で12月に上演することになった。こちらも大学演奏学科からの依頼で大学演奏会で今年3月に同曲とオッフェンバックのパリの喜びを上演する予定であったが、緊急事態宣言を受けて中止となってしまい、その代替としてこの秋に上演することにした。ミュージカルの名作のバレエ化作品を教え子に踊る機会を与えることができ、わくわくしながら日々彼女たちとリハーサルに取り組んでいる。
なおこの両作品については昨年10月チャコットウェブマガジン・ワールドリポートで紹介されており、よかったらこちらも閲覧して下さい。
大阪芸術大学舞踊コース卒業制作公演が10月下旬に無事に上演することが出来た。前述したパリの喜びをはじめ4年生制作による舞踊作品4作品、彼ら彼女たちの4年間の研究成果として発表することが出来た。今年4月下旬から企画制作を始め約半年におよぶ制作期間でほぼ毎日稽古を積んでいることもあり、通常行われているバレエ公演の創作作品よりも中身も濃く、制作費こそ一流バレエ団にはもちろん劣るが芸術性はしっかり保ったものと自負している。
来年2月下旬に大阪芸術大学芸術劇場で卒業舞踊公演として一般公開する予定もあり、ぜひ皆さまのお越しをお待ちしています。 -
●2021年9月(2)
夏休みを終え、大阪芸術大学舞踊コース後期スケジュールが再開した。また玉川大学芸術学部パフォーミングアーツ学科バレエ授業も追うように再開、一斉に舞踊教育がふたたび始まった。コロナ禍で授業形態が対面、オンラインと行ったり来たりでもううんざり、特にわれわれ舞台芸術分野はオンライン授業は不利なことが多く、通信環境も不具合がたびたび起こり、やりたいことがうまく行かず、この秋こそこれまでの通常授業が続くことを願うばかりである。
その対策のひとつであるワクチン接種だが、ありがたいことに大阪芸術大学ではいち早く7月に職域接種が開始されてその初日に学生たちに先駆け接種した。教え子たちにもそれぞれ健康上理由もあるのは承知だが、舞台芸術を身に置く者として、舞台に立ちたいのであればぜひとも受けてほしいと呼びかけ、舞踊コース生はみなうなづき次々と接種してくれたのはうれしかった。彼女たちの家庭内でもそれぞれ接種には考えがあっただろうがそれだけにその行動をともにしてくれたことに敬意を表し、秋から始まる大学舞踊公演を今年も全うしたい。
今年度東西の大学で上演する自作のバレエ作品は新旧合わせて5作品。国内で初めてバレエダンサーが大学教授になった者として(?)今年秋も愛しい教え子たちと舞台を疾走する所存です。 -
●2021年9月(1)
8月28日に松山バレエ団公演「ロミオとジュリエット」名場面集ガラ・コンサートにロミオ役のひとりとして出演させていただいた。この公演は5月に渋谷オーチャードホールで全幕公演が予定されていながら緊急事態宣言発令のために公演中止となり、その代替として5月ではジュリエット役を森下洋子先生おひとりで務めていたのを7名に分け、ロミオ役も4名に配役し、新たに企画され渋谷公会堂で上演されたもので、1幕幕開きから舞踏会シーンでジュリエットと出会い、最初のパドドゥまでの場面を踊らせていただいた。今から30年以上前に清水哲太郎先生と森下洋子先生が松山バレエ団で主演された公演を観て強く感銘を受け、今でも場面場面はっきりと記憶に残っている。素晴らしい踊りと演出振付に溢れ、亡き両親と三人で観に行き、帰ったあとも夜が更けるまで親子で語り合った思い出があっただけに、まさか部分的とはいえこうして今踊ることになるとは感謝しかなかった。本番はジュリエット役の森下洋子先生を相手役に精一杯踊らせていただいたが、清水哲太郎先生の演出は素晴らしく、なかでもふたりの出会いのファーストサイト、プロコフィエフの音楽が盛り上がる中約1分間見つめ合うところのシーンが実に素敵なのだが、その場面を演じさせていただいたことが何よりも幸せであった。公演ではバレエ団のプリマバレリーナ山川晶子さんや佐藤明美さんをはじめ女性トップダンサーが次々とジュリエット役を踊り、各場面それぞれがバレエ団若手男性舞踊手とともに素晴らしい踊りを示していた。観にいらした方々がバレエ団のオールスターがリレーのようにバトンを渡しながら、また主人公だけでなく、ダンサーそれぞれがさまざまな役を演じバレエ団総力を挙げた姿に感銘を受けたと感想をいただいた。そのひとりとして踊ることが出来たのも清水哲太郎先生、松山バレエ団スタッフ、団員の皆さんに温かく包まれサポートしていただいたからこそであった。
公演前に亡くなられた松山樹子先生や両親も天国で見守ってくれてたらうれしいな。 -
●2021年8月
今年の夏、とりわけ中旬は悪天候の日々で猛暑かと思ったら雨が長く続き災害も各地起きてしまい心が痛む。
感染拡大のなかでも東京オリンピックは何とか無事に終えてほっとしている。それにしても無観客は残念。2年越しにずっと持っていた観戦チケットもパァとなりがっかり。なかでもアーティスティックスイミングは楽しみにしていただけに残念。バレエではアンサンブルやハーモニックなフォーメーションを日頃から意識しているので水中ではどのように展開されるのか観客席から観ることを心待ちにしていた。このコロナ禍が明け来年の夏に足を運ぼうと思う。今年の盛夏はうれしくない緊急事態宣言下ながらいつもと変わらぬバレエ漬けの日々を送らせていただいた。昨年8月開催予定だった毎年恒例で行われる日本バレエ協会主催「全国合同バレエの夕べ」公演が中止となり、1年延期されて今月上旬に東京・新国立劇場オペラ劇場であり、自作のバレエ作品「グラズノフ・スイート」を上演させていただいた。このコラム2019年10月号に詳しく書かせていただいた同じ作品で、好評を賜りぜび再演をと日本バレエ協会千葉地区会員の先生方からオファーをいただき実現したもの。やはりコロナ禍をはさみ2年が経ち、キャストもかなり変わり、主役男性舞踊手は私のバレエプロジェクト公演メンバーで大学の教え子の東京シティバレエ団浅井永希君で、彼をはじめ数名の信頼を寄せる女性バレエダンサーを援軍に加えバージョンアップさせて上演させていただいた。この作品は初演以来ここ10数年のなかで何度も大阪芸術大学舞踊公演で再演を重ねてきたが、オーケストラによる上演は初めてで、また6月から始まった2ヶ月におよぶリハーサル期間、バレエミストレスのバレリーナ有光風花さんがしっかりと務め作品を磨いて下さったこともあり、とても意義深いものとなった。オーケストラ演奏を指揮していただいたマエストロはKバレエカンパニー音楽監督でおられる井田勝大氏で、この度初めての顔合わせだったが、さすが国内を代表するバレエ指揮者で演奏も力強く強く華を添えていただき、終演後は袖で力強く握手を交わさせていただいた。
中旬には20代の頃に長く客演させていただいた東京シティバレエ団全国バレエコンペティション3日間におよび親交深い安達悦子バレエ団芸術監督、国際的バレリーナ加治屋百合子さん、志賀育恵さんらと共に審査員を務めさせていただいた。
そしてこのたび、1月に「新白鳥の湖」に客演させていただいたのに続き、8月28日に渋谷公会堂・グランキューブで松山バレエ団「ロミオとジュリエット」スペシャル公演に出演させていただいた。今回も感慨深き舞台となった。このことについては次号で記述したい。 -
●2021年7月
今年も夏が来た。もともと舞踊家はインドアであまりアウトドアのことは気にならず、晴れても曇っても嵐になろうとも日々のレッスンやリハーサルでもあまり影響はないのだが、気分的には夏だと思うと暑いのは好きだし心も浮き立つ。かれこれスポーツクラブにも長く通っており、夏といえばプールで小学生の頃スイミングクラブに通っていたこともあって泳ぎは得意な方で今でも週2回は泳ぐ。同じ所属しているスポーツクラブならば東京でも大阪でも通い放題なので、時間があればトレーニングをしている。今こうして松山バレエ団に再び現役バレエダンサーとして踊らせていただいていることもあり、泳ぐことは筋肉やキネシスにもアイシング効果もあり、ダンサーにとっては大切なことだ。ただこれもインドア、室内プールなので季節にはあまり関係ないことなのだが。
相変わらず感染がおさまらず、われわれ舞台芸術を身に置くものにとって予定されている舞台本番が出来るかどうかやきもきする。7月は毎年大阪芸術大学ではかならず本番があり、昨年もこのコラムで触れたようにコロナ禍真っ只中で、本番前々日に大学内に感染者が出て一度中止に追い込まれながら、濃厚接触者に当たる者が出ず無事に上演できた経緯があった。しかし今年は何とか無事にバレエ「バヤデール宮殿の場」と「花のワルツ」を上演することができ、踊った舞踊コース2回生14名と3回生21名はプロのバレエ団同様コロナ禍だろうが毎日休みなく稽古、リハーサルをして臨んだだけに意義は大きかった。
1年前の今頃はもう世の中も日常に戻っていると誰もが思っていたと思うが未だにウイルス感染が収まらず、公演鑑賞も思うように観に行けない。7月に観れたのは松山バレエ団公演、双子の兄の堀内元バレエフューチャー2021、東京新聞社が主催するモダンダンス・現代舞踊家による現代舞踊展の3本のみだった。しかしながらいずれもコロナ禍を吹き飛ばす熱演の数々で素晴らしかった。あとは趣味であるフランス映画鑑賞をシネスイッチ銀座で公開された「ベル・エポックでもう1度」を。フランス映画はやはりすてきで今回のテーマはタイムトラベルサービスで半SF作品。冴えない中年男性がタイムトラベルで過去が甦り、運命の女性と出会い見違えるほどイキイキしていくというもの。前回春先に観たフランス映画は「マーメイド イン パリ」もイケテナイ男性と出会うはずのない人魚のおとぎ恋物語。どちらもどっぷり堪能しました。だからフランス映画はたまらない。えっ?主人公と自分をダブらせてんじゃないのって?さぁどうでしょうか…。でもみなさんだってそうでしょ、舞台芸術鑑賞はだからすばらしいのです。