2016年6月(2)

 今年も東京を中心にフランス国際映画祭が開かれる。日本では外国映画といえばアメリカ映画と決まっていてファンタジーやSF娯楽作品やアドベンチャーものなどがかならず上映している。私もかつてアメリカに5年間滞在していたときは映画をよく観に行き、日本に戻ってからも話題作には足を運んでいた。もう5、6年前の話になるが、ハチ公の米国版「HACHI」や「ベンジャミン・バトンの数奇な人生」などはバレエダンサーやレッスンピアニストが主人公で、それが身近に感じて楽しく今でもたまに見ている。若い頃は「バック トゥ ザ フューチャー」や「ターミネーター」に夢中になったもので、自作のバレエ作品にそのタイトルを真似たり、作品の雰囲気を醸し出したり、自身の振付にも影響を受けた。

 今はフランス映画が好きだ。バレエ作品でドラマを手掛けるようになり、台本を読みあさることもあるが、フランスの戯曲台本を読むと、かならずまず主人公の独白から始まる。まるでアニメやドラマの始まりのあらすじを説明するような感じなのだか、それがひとりの主人公の語りによってストーリーの3分の1ぐらいを一気に語られる。本を読むときは特に感じなかったのだが、それが映画になるとその独白の場面が注目すべきところなのだ。映画が台本と同じ語りから始まり、その話に合わせた情景や出来事が映画音楽とともに展開される。その映像各シーンで映画監督や映画音楽家、また俳優たちの芸術的知性や感性が発揮され、季節に合わせた街並みや公園などの風景、またそこにいる俳優たちの演技が、ドラマティックな舞踊作品のように映り、どの作品も10分ぐらい続くが実に美しいのである。フランス映画の特徴はまさにそこで、毎回それが楽しみで開演直後がわくわくする。
昨年の公開作品「彼は秘密の女ともだち」と「ポヴァリー夫人とパン屋 」とも冒頭のシーンは素敵で期待を裏切らなかった。さすがバレエの母国フランスで舞踊芸術のセンスはこんなところからきているのかもしれない。この映画祭がなければあまりフランス映画を観る機会はなかなか得られないのでお見逃しなく。

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